‥母は龍の背に乗って旅立った。
それはそれは美しく晴れた穏やかな日だった。
旅立ちの早朝、最期に母から名前を呼んでもらえた事が何より嬉しかった。
私がそれを心から切望していることを、母は知っていたのだろうか。
僧侶さまのお話によると、母は龍の背に乗って旅をするのだそうだ。
その行先は「六道」と呼ばれ、七日毎にそれぞれ審判を受けて最終的には極楽浄土を目指すらしい。今年は龍年のため、温かい御心を込めて丁寧にお話くださった。
母は今頃、どんな旅をしているのだろうか。
母が旅立ったその日は、美しい数字が並んでいた。
後ほど戸籍を見たら、誰も知らない両親の入籍日だった。まるでその日を選んで逝ったかのようで、良妻賢母の母らしい。
お母さん
お母さんがどこにいるのか、私たちは知っています。だからまた、必ず逢えると信じています。その後どんな人生を生きたのか報告しますから、楽しみに待っていてください。できればたくさんの出来事をお話したいから、ゆっくり行くようにしますね。